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憲法最高裁判所の判例の趣旨に照らすと,憲法第17条は,公務員の不法行為について,「法律の定めるところにより」損害賠償を請求し得る旨を定めており,その保障する損害賠償請求権について,法律による具体化を予定しているが,同条は,公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断に委ねるものであって,立法府に無制限の裁量権を付与したものではないから,非権力作用に属する公務員の行為についてであっても,無条件に国又は公共団体の賠償責任を否定する法律は,違憲無効となる。憲法結果正解解説判例は,郵便業務従事者が書留郵便物や特別郵便物を滅失・毀損した際の損害賠償額を制限していた郵便法旧68条,73条の憲法17条適合性が問題となった事例において,同条の趣旨につき,「憲法17条は,……その保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については,法律による具体化を予定している。これは,公務員の行為が権力的な作用に属するものから非権力的な作用に属するものにまで及び,公務員の行為の国民へのかかわり方には種々多様なものがあり得ることから,国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上,公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって,立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない」としている(最大判平14.9.11 郵便法違憲判決 憲法百選Ⅱ〔第7版〕128事件)。つまり,同条は,公務員の違法な行為について権力作用か非権力作用かを区別せずに,原則として国又は公共団体の不法行為責任を認めているといえる。そして,同条は,法律に対し白紙委任することを認めているわけではないから,法律が,無条件に国又は公共団体の賠償責任を否定する等,同条の保障の趣旨を没却するような場合には,その法律は違憲無効になると解されている。よって,本記述は正しい。参考精読憲法判例(人権編)609~616頁。
平14最高裁解説(民事)607~608頁。 -
民法ABCが,Dから2,000万円を借り入れ,その返還債務を連帯債務とする契約(負担部分は,Aが5分の3,B,Cがそれぞれ5分の1ずつとする。)を締結した場合,Aのために消滅時効が完成した場合でも,B及びCは,Dに対して2,000万円の連帯債務を負う。民法結果正解解説民法441条本文は,「第438条,第439条第1項及び前条に規定する場合を除き,連帯債務者の一人について生じた事由は,他の連帯債務者に対してその効力を生じない。」としており,原則として,更改,相殺及び混同以外の事由については,相対的効力事由とされている。したがって,連帯債務者の一人であるAのために消滅時効が完成しても,その効力はB及びCに及ばず,B及びCは,Dに対して2,000万円の連帯債務を負ったままである。よって,本記述は正しい。
なお,Aのために消滅時効が完成しても,B又はCが,債務を履行した場合には,Aに対して求償権を行使することができ(同445条参照),この場合においては,Aは自己の負担部分について,時効による債務からの解放の利益を受けられない。また,平成29年改正前民法439条は,連帯債務者の一人についての時効の完成を絶対的効力事由であるとし,その負担部分については,他の連帯債務者もその義務を免れるとしていた。しかし,これでは債権者は,全ての連帯債務者との間でも消滅時効の完成を阻止する措置をとらなければ,特定の連帯債務者との間でも債権の全額を保全することはできず,また,同改正後民法によれば,履行の請求についても相対的効力しか認められないので(同改正後民法441条本文参照),債権者に大きな負担となる。そこで,同改正によって,同改正前民法439条は削除され,時効の完成を相対的効力事由とした。参考潮見(新債権総論Ⅱ)598~600頁。
一問一答(民法(債権関係)改正)123頁,125頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,甲は,無許可のデモ行進に参加していたところ,警察官らがこれを解散させようとしたため,警察官らに向けて石を一回投げ付け,その石は警察官乙の耳のあたりをかすめたが乙には命中しなかった。甲には公務執行妨害罪は成立しない。刑法結果正解解説判例は,本記述と同様の事例において,「公務執行妨害罪は公務員が職務を執行するに当りこれに対して暴行又は脅迫を加えたときは直ちに成立するものであって,その暴行又は脅迫はこれにより現実に職務執行妨害の結果が発生したことを必要とするものではなく,妨害となるべきものであれば足りうるものである」とした上で,「投石行為はそれが相手に命中した場合は勿論,命中しなかった場合においても本件のような状況の下に行われたときは,暴行であることはいうまでもなく,しかもそれは相手の行動の自由を阻害すべき性質のものであることは経験則上疑を容れないものというべきである」としている(最判昭33.9.30 刑法百選Ⅱ〔第7版〕115事件)。したがって,甲には公務執行妨害罪が成立する。よって,本記述は誤りである。参考大谷(講義各)582頁。
基本刑法Ⅱ492頁。
条解刑法278頁。
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憲法最高裁判所の判例の趣旨に照らすと,市が遺族会に対し,忠魂碑の敷地として市の敷地を無償貸与することは,小学校の校舎の建替えのため,公有地上に存する戦没者記念碑的な性格を有する施設をほかの場所に移設し,その敷地として利用することを目的とするものであり,専ら世俗的なものといえ,その効果も,特定の宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等にはならず,政教分離規定に反しない。憲法結果正解解説判例は,市が遺族会に対し,忠魂碑の敷地として市の敷地を無償貸与することが政教分離規定に反するかが争われた事例において,「箕面市が旧忠魂碑ないし本件忠魂碑に関してした次の各行為,すなわち,旧忠魂碑を本件敷地上に移設,再建するため右公社から本件土地を代替地として買い受けた行為(本件売買),旧忠魂碑を本件敷地上に移設,再建した行為(本件移設・再建),市遺族会に対し,本件忠魂碑の敷地として本件敷地を無償貸与した行為(本件貸与)は,いずれも,その目的は,小学校の校舎の建替え等のため,公有地上に存する戦没者記念碑的な性格を有する施設を他の場所に移設し,その敷地を学校用地として利用することを主眼とするものであり,そのための方策として,右施設を維持管理する市遺族会に対し,右施設の移設場所として代替地を取得して,従来どおり,これを右施設の敷地等として無償で提供し,右施設の移設,再建を行ったものであって,専ら世俗的なものと認められ,その効果も,特定の宗教を援助,助長,促進し又は他の宗教に圧迫,干渉を加えるものとは認められない。したがって,箕面市の右各行為は,宗教とのかかわり合いの程度が我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず,憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらないと解するのが相当である」としている(最判平5.2.16 箕面忠魂碑・慰霊祭訴訟 憲法百選Ⅰ〔第7版〕46事件)。よって,本記述は正しい。
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民法判例の趣旨に照らすと,他主占有者の相続人が自らの占有のみに基づいて時効取得を主張する場合,占有者の所有の意思は推定されるため,相続人の時効取得を争う相手方が,その占有が自己の意思に基づくものでないことを立証しなければならない。民法結果正解解説判例は,占有者の承継人は,その選択に従い,自己の占有のみを主張することができるとする民法187条1項は,相続のような包括承継にも適用されるとしている(最判昭37.5.18)。そして,別の判例は,「他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合において」,その「占有が所有の意思に基づくものであるといい得るためには,取得時効の成立を争う相手方ではなく,占有者である当該相続人において,その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すべきものと解するのが相当である」としている(最判平8.11.12 民法百選Ⅰ〔第8版〕67事件)。よって,本記述は誤りである。
なお,判例は,「占有者は所有の意思で占有するものと推定される」(暫定真実 同186条1項)ため,取得時効の成立を争う相手方が,その「占有が他主占有にあたることについての立証責任を負う」としている(最判昭54.7.31)。参考佐久間(物権)279頁,281~284頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,単純遺棄罪の客体は,「老年,幼年,身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者」と規定されているが,扶助を必要とする原因として挙げられている「老年,幼年,身体障害又は疾病」は,例示列挙であるから,老年,幼年,身体障害又は疾病の者以外で扶助を必要とする者も,単純遺棄罪の客体となり得る。刑法結果正解解説単純遺棄罪(刑法217条)の客体は,「老年,幼年,身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者」であり,これらの扶助を要する原因は制限列挙であると解されている。したがって,老年,幼年,身体障害又は疾病の者以外で扶助を必要とする者は,単純遺棄罪の客体となり得ない。よって,本記述は誤りである。
なお,この点については,保護責任者遺棄罪(同218条)の客体についても同様に解されている。参考新基本法コメ(刑法)468頁。
基本刑法Ⅱ19~20頁。
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憲法憲法第31条は,刑罰を科す手続を法律で定めることを要求するのみであり,刑罰の実体要件を法律で定めなければならないという罪刑法定主義を要求していないとする見解によっても,憲法第73条第6号や憲法第39条の規定から,罪刑法定主義は憲法上当然の前提とされていると解することができる。憲法結果正解解説憲法31条は,刑罰を科す手続を法律で定めることを要求するのみであり,刑罰の実体要件を法律で定めることを要求していないとする見解によれば,いわゆる罪刑法定主義は,同条の要求するところではない。もっとも,罪刑法定主義の内容として挙げられる行政命令による罰則制定の禁止や,遡及処罰の禁止が,それぞれ同73条6号と同39条で定められているから,罪刑法定主義は憲法上当然の前提とされていると解することができる。よって,本記述は正しい。参考佐藤幸(日本国憲法論)330~331頁。
野中ほか(憲法Ⅰ)410~411頁。 -
民法判例の趣旨に照らすと,不当利得として利得した財貨が金銭債権に変わった場合,特段の事情がない限り,現存する利得は,債権の額面額相当の価値であると推定される。民法結果正解解説利得した金銭が貸金債権,預金債権,非債弁済による不当利得返還請求権等に形を変えている場合であっても,利得は存在すると解されている。例えば,AがBから利得した金銭を法律上の原因なしにCに交付した場合には,AのCに対する不当利得返還請求権の形で利得が現存することとなる。そして,判例は,このことを前提として,「債権の価値は債務者の資力等に左右されるものであるが,特段の事情のない限り,その額面金額に相当する価値を有するものと推定すべき」としている(最判平3.11.19)。特段の事情として,同判決は,第三債務者が,受領した金銭を喪失し,又は金銭返還債務を履行するに足る資力を失った等の事情を挙げている。したがって,このような特段の事情がない限り,不当利得として利得した財貨が金銭債権に変わった場合,現存する利得は,債権の額面額相当の価値であると推定される。よって,本記述は正しい。参考平3最高裁解説(民事)457~458頁。
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刑法罪刑法定主義に関して,判例の立場に従って検討した場合,被告人にとって有利な方向に働くのであれば,類推解釈も許容される。刑法結果正解解説類推解釈ないし類推適用とは,法文で規定されている内容と,その法文の適用が問題となっているがその法規には含まれない事実との間に,類似ないし共通の性質があることを理由として,前者に関する法規を後者に適用することをいう。そして,類推解釈は,行為後に裁判官により刑罰法規が創造されるに等しいので,法律主義の要請(犯罪行為の事前告知の要請)に反するため,許されない。もっとも,類推解釈の禁止は,主として当該行為を行った者又は行おうとする者の権利と自由の保護のための原則であるから,その者に有利な方向での類推解釈は許される。よって,本記述は正しい。参考井田(総)59頁。
大谷(講義総)64頁。
リーガルクエスト(刑法総論)17頁。
基本刑法Ⅰ21頁。
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憲法司法権の範囲ないし限界に関して,最高裁判所の判例の趣旨に照らすと,裁判所は,衆参両議院の自主性を尊重するため,両院において議決を経たものとされ適法な手続によって公布された法律に関しては,法律制定の議事手続に関する事実を審理してその有効無効を判断することはできない。憲法結果正解解説判例は,昭和29年に制定された新警察法の成立手続の違憲性を主張する住民訴訟が提起された事例において,「同法は両院において議決を経たものとされ適法な手続によって公布されている以上,裁判所は両院の自主性を尊重すべく同法制定の議事手続に関する……事実を審理してその有効無効を判断すべきでない」として,両院の議事手続に対する司法審査を否定している(最大判昭37.3.7 警察法改正無効事件 憲法百選Ⅱ〔第6版〕186事件)。よって,本記述は正しい。
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民法判例の趣旨に照らすと,抵当不動産の第三取得者が,抵当不動産につき必要費又は有益費を支出して民法第391条に基づく優先償還請求権を有している場合,抵当不動産の競売代金が抵当権者に交付されたため,第三取得者が優先償還を受けられなかったときには,第三取得者は,当該抵当権者に対し,不当利得返還請求をすることができない。民法結果正解解説抵当不動産の第三取得者は,抵当不動産について必要費又は有益費を支出したときは,民法196条の区別に従い,抵当不動産の代価から,他の債権者より先にその償還を受けることができる(同391条)。そして,判例は,「抵当不動産の第三取得者が,抵当不動産につき必要費または有益費を支出して民法391条にもとづく優先償還請求権を有しているにもかかわらず,抵当不動産の競売代金が抵当権者に交付されたため,第三取得者が優先償還を受けられなかったときは,第三取得者は右抵当権者に対し民法703条にもとづく不当利得返還請求権を有する」としている(最判昭48.7.12)。その理由として,同判決は,当該必要費又は有益費の優先償還請求権は,不動産の価値を維持・増加するために支出された一種の共益費であり,最先順位の抵当権にも優先するものであること,抵当権者は,第三取得者との関係で第三取得者が受けるべき優先償還金に相当する金員の交付を受けてこれを保有する実質的理由を有しないことなどを挙げている。よって,本記述は誤りである。参考川井(2)361頁。
道垣内Ⅲ175頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,甲は,乙と共に,V方に侵入してVに暴行を加え,金品を強取しようと企て,深夜,2人でV方付近に赴き,付近の下見などをした。その後,乙がV方に侵入し,甲がV方の前に停めた自動車内で見張りをしていたところ,現場付近に人が集まって来たため,甲は,犯行の発覚を恐れて,屋内にいる乙に電話をかけ,「人が集まって来ている。早くやめて出てきた方がいい。」と告げたが,乙から,「もう少し待て。」などと言われたので,「危ないから待てない。先に帰る。」と乙に一方的に告げ,自動車でその場から立ち去った。乙はいったんV方を出て,甲が立ち去ったことを知ったが,V方に戻って強盗を実行し,その際加えた暴行によりVに傷害を負わせた。この場合,甲には,住居侵入罪及び強盗致傷罪の共同正犯が成立する。刑法結果正解解説判例は,本記述と同様の事例において,「見張り役の共犯者が既に住居内に侵入していた共犯者に電話で「犯行をやめた方がよい,先に帰る」などと一方的に伝えただけで,被告人において格別それ以後の犯行を防止する措置を講ずることなく待機していた場所から見張り役らと共に離脱したにすぎず,残された共犯者らがそのまま強盗に及んだものと認められる。そうすると,被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり,たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し,残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても,当初の共謀関係が解消したということはできず,その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である」としている(最決平21.6.30 刑法百選Ⅰ〔第7版〕94事件)。したがって,本記述では,当初の共謀に基づく因果性が遮断されたとはいい難く,甲には,住居侵入罪(刑法130条前段)及び強盗致傷罪の共同正犯(同240条前段,60条)が成立する。よって,本記述は正しい。参考高橋(総)515~516頁。
基本刑法Ⅰ399~401頁。
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憲法最高裁判所の判例の趣旨に照らすと,文書が持つ芸術性・思想性が,文書の内容である性的描写による性的刺激を減少・緩和させて,刑法が処罰の対象とする程度以下にわいせつ性を解消させる場合があることは考えられるものの,そのような程度にわいせつ性が解消されない限り,芸術的・思想的価値のある文書であっても,わいせつな文書としての取扱いを免れることはできない。憲法結果正解解説判例は,マルキ・ド・サドの「悪徳の栄え」の翻訳者と出版社社長が,出版物がわいせつ文書に当たるとして刑法175条違反で起訴された事例において,わいせつ性と芸術性の関係についてチャタレイ事件(最大判昭32.3.13 憲法百選Ⅰ〔第6版〕56事件)の見解に従う旨を述べた上で,「文書がもつ芸術性・思想性が,文書の内容である性的描写による性的刺激を減少・緩和させて,刑法が処罰の対象とする程度以下に猥褻性を解消させる場合があることは考えられるが,右のような程度に猥褻性が解消されないかぎり,芸術的・思想的価値のある文書であっても,猥褻の文書としての取扱いを免れることはできない。当裁判所は,文書の芸術性・思想性を強調して,芸術的・思想的価値のある文書は猥褻の文書として処罰対象とすることができないとか,名誉毀損罪に関する法理と同じく,文書のもつ猥褻性によって侵害される法益と芸術的・思想的文書としてもつ公益性とを比較衡量して,猥褻罪の成否を決すべしとするような主張は,採用することができない」としている(最大判昭44.10.15 「悪徳の栄え」事件 憲法百選Ⅰ〔第6版〕57事件)。よって,本記述は正しい。
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民法A,B及びCが各3分の1の持分で甲土地を共有している場合に関して,判例の趣旨に照らすと,Bが単独で甲土地を占有している場合でも,A及びCは,その共有持分が過半数を超えていることを理由としては,Bに対して,甲土地全体の明渡しを求めることはできない。民法結果正解解説判例は,その有する共有持分の価格が共有物の価格の過半数を超える多数持分権者が,共有物を単独で占有している少数持分権者(その有する共有持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者をいう。)に対してその明渡しを求めた事例において,多数持分権者であっても,共有物を現に占有する「少数持分権者に対し,当然にその明渡を請求することができるものではない」としている(最判昭41.5.19 民法百選Ⅰ〔第8版〕74事件)。その理由として,同判決は,「少数持分権者は自己の持分によって,共有物を使用収益する権限を有し,これに基づいて共有物を占有する」ことが認められることを挙げている。よって,本記述は正しい。参考佐久間(物権)208~209頁。
平野(総則)321~322頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,強制性交等未遂罪の犯人が,強制性交の実行に着手した直後に,強盗の犯意を生じ,同じ被害者に対して,強盗罪の手段に当たる脅迫を行ったが財物を強取するには至らなかった場合には,強制性交等未遂罪と強盗未遂罪の併合罪となる。刑法結果正解解説平成29年改正以前の強盗強姦罪(旧刑法241条前段)は,強盗犯人が強姦行為に及んだ場合に限って成立し,強姦の後に強盗の犯意を生じて財物を強取した場合には同罪は成立せず,強姦罪と強盗罪の併合罪となるにすぎないと解されていた(最判昭24.12.24)。しかし,強盗と強姦の前後がいずれであっても重大犯罪であることに変わりはないことから,現行の強盗・強制性交等罪(刑法241条1項)は,強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が,強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した場合,又は強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した者が,強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した場合のいずれでも成立するものと改められた。つまり,同一の機会に強盗行為と強制性交等の行為を行った場合,その先後にかかわりなく,強盗・強制性交等罪は成立する。また,同項は,強盗罪と強制性交等罪がいずれも未遂の場合であっても,強盗・強制性交等罪が成立する旨規定しているから,強盗・強制性交等罪には未遂犯を観念することはできず,同43条も適用されない。したがって,本記述の場合には,強盗・強制性交等罪が成立する。よって,本記述は誤りである。参考西田(各)201~203頁。
基本刑法Ⅱ226~229頁。
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憲法憲法第81条の規定は,最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定であって,下級裁判所が違憲審査権を有することを否定する趣旨ではなく,下級裁判所も違憲審査権を行使し得る。憲法結果正解解説判例は,「憲法は国の最高法規であってその条規に反する法律命令等はその効力を有せず,裁判官は憲法及び法律に拘束せられ,また憲法を尊重し擁護する義務を負うことは憲法の明定」していることから,「裁判官が,具体的訴訟事件に法令を適用して裁判するに当り,その法令が憲法に適合するか否かを判断することは,憲法によって裁判官に課せられた職務と職権であって,このことは最高裁判所の裁判官であると下級裁判所の裁判官であることを問わない。憲法81条は,最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定であって,下級裁判所が違憲審査権を有することを否定する趣旨をもっているものではない」としている(最大判昭25.2.1 憲法百選Ⅱ〔第4版〕200事件)。よって,本記述は正しい。
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民法成年後見人が,成年被後見人が所有する甲不動産を売却する前に被保佐人となった場合,法定代理人として甲不動産を売却するためには,その保佐人の同意を得なければならない。民法結果正解解説被保佐人が,成年被後見人の法定代理人として,民法13条1項1号から9号までに規定する行為をするには,その保佐人の同意を得なければならない(同項10号)。本記述において,成年後見人は,被保佐人となっており,不動産の売却は,不動産に関する権利の得喪を目的とする行為(同項3号)であるから,成年被後見人の法定代理人としてする甲不動産の売却について,保佐人の同意を得なければならない。よって,本記述は正しい。
なお,同13条1項10号は,平成29年民法改正において新設された規定であり,制限行為能力者の法定代理人も制限行為能力者である場合に,代理される本人が法定代理人の行為により不利益を被ることを避けるために,取消しの根拠規定を設けたものである。参考佐久間(総則)95頁,235頁。
一問一答(民法(債権関係)改正)30~31頁。
新版注釈民法(1)358~359頁。 -
刑法甲は,乙の経営する店の道路に面する部分の全面に物を一面に並べ立てた。このとき,乙の事業は知事の許可を得ていない違法なものであった。この場合,甲には,威力業務妨害罪が成立する余地はない。刑法結果正解解説業務妨害罪にいう「業務」とは,職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいう。ここで,違法な業務が同罪で保護されるかが問題となる。この点,同罪は事実上平穏に行われている人の社会的活動の自由を保護しようとするものである。そのため,「偽計」や「威力」などの手段から刑法上保護されることが相当と認められるものであれば,違法な業務であっても「業務」に含まれる。よって,本記述は誤りである。
なお,裁判例は,知事の許可を受けていない者が行う浴場営業(東京高判昭27.7.3),風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に反するパチンコ遊技客からの景品の買入れ(横浜地判昭61.2.18)について,同罪の「業務」に当たるとしている。参考山口(各)157頁。
基本刑法Ⅱ110~111頁。
新基本法コメ(刑法)505頁。
条解刑法694~695頁。
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憲法最高裁判所の判例によれば,憲法第22条第1項の「移転」とは,短期的な移動一般を意味するため,一時的な海外渡航の自由は,同項により保障される。憲法結果正解解説判例は,旅券発給拒否処分の憲法適合性が争われた事例において,「憲法22条2項の「外国に移住する自由」には外国へ一時旅行する自由を含む」としている(最大判昭33.9.10 帆足計事件 憲法百選Ⅰ〔第6版〕111事件)。よって,本記述は誤りである。
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民法不動産の譲渡担保権者が,その不動産に設定された先順位の抵当権の被担保債権を代位弁済したことによって求償債権を取得した場合,当該求償債権は,譲渡担保設定契約に特段の定めがない限り,譲渡担保権の被担保債権に含まれない。民法結果正解解説判例は,「不動産の譲渡担保権者がその不動産に設定された先順位の抵当権又は根抵当権の被担保債権を代位弁済したことによって取得する求償債権は,譲渡担保設定契約に特段の定めのない限り,譲渡担保権によって担保されるべき債権の範囲に含まれない」としている(最判昭61.7.15 昭61重判民法6事件)。その理由として,同判決は,「抵当権(根抵当権を含む。以下同じ。)の負担のある不動産に譲渡担保権の設定を受けた債権者は,目的不動産の価格から先順位抵当権によって担保される債権額を控除した価額についてのみ優先弁済権を有するにすぎず,そのような地位に立つことを承認し,右価額を引き当てにして譲渡担保権の設定を受けたのであるから,先順位の抵当債務を弁済し,これによって取得すべき求償債権をも当然に譲渡担保の被担保債権に含ませることまでは予定していないのが譲渡担保設定当事者の通常の意思であると解される」ことを挙げている。よって,本記述は正しい。参考道垣内Ⅲ330頁。
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刑法責任能力に関して,判例の立場に従って検討した場合,犯行当時,行為者に重度の精神疾患があった場合には,心神喪失の状態にあったと判断されなければならない。刑法結果正解解説心神喪失とは,精神の障害により,行為の是非善悪を弁識する能力(弁識能力)がないか,又はその弁識に従って行動する能力(制御能力)がない状態をいう(大判昭6.12.3 刑法百選Ⅰ〔第4版〕33事件)。この定義のうち,精神の障害を生物学的要素,弁識能力・制御能力を心理学的要素と呼んでいる。この点,生物学的要素である精神の障害(疾病判断)が責任能力の判断にどのように関係するかについて,判例は,被告人が犯行当時精神分裂病にり患していたからといって,直ちに心神喪失の状態であったとされるものではなく,その責任能力の有無・程度は,被告人の犯行当時の病状,犯行前の生活状態,犯行の動機・態様等を総合して判断すべきであるとしている(最決昭59.7.3 刑法百選Ⅰ〔第6版〕33事件)。したがって,犯行当時,行為者に重度の精神疾患があった場合でも,必ずしも心神喪失の状態にあったと判断されるわけではない。よって,本記述は誤りである。参考高橋(総)356~357頁。
基本刑法Ⅰ223頁。
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憲法「法の支配」における「法」とは,議会が制定する形式的な法律をいい,その中身の合理性は問題とされない。憲法結果正解解説「法の支配」における「法」とは,内容が合理的でなければならないという実質的要件を含む観念である。よって,本記述は誤りである。
なお,戦前のドイツの「法治国家」の観念における「法」とは,内容とは関係のない形式的な法律にすぎず,そこでは,議会の制定する法律の中身の合理性は問題とされなかった。参考芦部(憲法)15頁。 -
民法消滅時効に関して,判例の趣旨に照らすと,不法行為の時から20年が経過した場合,裁判所は,当事者からの主張がなくとも,不法行為に基づく損害賠償請求権が消滅したものと判断すべきである。民法結果正解解説民法724条2号は,不法行為による損害賠償請求権は,不法行為の時から20年間行使しない場合には時効によって消滅すると規定している。そして,時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない(同145条)。したがって,不法行為の時から20年が経過した場合であっても,裁判所は,当事者からの主張なく,損害賠償請求権が時効によって消滅したものと判断することはできない。よって,本記述は誤りである。
なお,平成29年改正前民法下における判例は,「民法724条後段の規定は,不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解するのが相当である」とした上で,「裁判所は,除斥期間の性質にかんがみ,本件請求権が除斥期間の経過により消滅した旨の主張がなくても,右期間の経過により本件請求権が消滅したものと判断すべきであ」るとしていた(最判平元.12.21 平元重判民法9事件)。しかし,上述のように,同改正により,20年の期間も時効期間であることが明らかにされた。参考佐久間(総則)414頁,431~432頁。
平野(総則)438~441頁。
潮見(基本講義・債各Ⅱ)137頁。
一問一答(民法(債権関係)改正)63~64頁。 -
刑法偽証の罪に関して,判例の立場に従って検討した場合,甲は,宣誓の上で偽証をしたが,その証言をした事件について,その裁判が確定する前に裁判所に対して偽証した事実を具体的に告白した。この場合,甲には,偽証罪が成立するが,その刑を減軽し,又は免除することができる。刑法結果正解解説刑法170条は,「前条の罪(注:偽証罪)を犯した者が,その証言をした事件について,その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは,その刑を減軽し,又は免除することができる。」と規定している。自白とは,偽証した事実を具体的に告白することであるところ,自白は,自ら積極的に申し立てる場合のほかに,尋問に応じて告白する場合でもよい。そして,自白の相手方は,裁判所,捜査機関,懲戒権者に限られる。本記述において,偽証をした甲は,その証言をした事件について,その裁判が確定する前に裁判所に対して自白している。したがって,甲には,偽証罪が成立するが,その刑を減軽し,又は免除することができる。よって,本記述は正しい。参考山口(各)597頁。
基本刑法Ⅱ550頁。
条解刑法480頁。
正解率
科目名
科目名 正解率
解答日・解答結果
設問
解答
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憲法最高裁判所の判例によれば,未決拘禁者に喫煙を許すと,罪証隠滅のおそれや火災発生の場合の逃走も予想される一方で,たばこは嗜好品にすぎず,その禁止は人体に直接障害を与えるものではないことからすると,未決拘禁者について喫煙の自由を一般に認めないのはやむを得ない措置というべきである。憲法結果正解解説判例は,未決拘禁者の喫煙を禁止する旧監獄法施行規則96条が憲法13条に違反するかが争われた事例において,「未決勾留は,刑事訴訟法に基づき,逃走または罪証隠滅の防止を目的として,被疑者または被告人の居住を監獄内に限定するものであるところ,監獄内においては,多数の被拘禁者を収容し,これを集団として管理するにあたり,その秩序を維持し,正常な状態を保持するよう配慮する必要がある。このためには,被拘禁者の身体の自由を拘束するだけでなく,右の目的に照らし,必要な限度において,被拘禁者のその他の自由に対し,合理的制限を加えることもやむをえないところである」とした上で,未決拘禁者の喫煙の自由を認めることは,通謀とそれに伴う罪証隠滅のおそれ及び火災発生による被拘禁者の逃走のおそれを生じさせること,たばこが嗜好品にすぎず,喫煙の禁止が人体に直接障害を与えるものではないことからすれば,「喫煙の自由は,憲法13条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても,あらゆる時,所において保障されなければならないものではない。したがって,このような拘禁の目的と制限される基本的人権の内容,制限の必要性などの関係を総合考察すると,……喫煙禁止という程度の自由の制限は,必要かつ合理的なものであると解するのが相当であり,(旧)監獄法施行規則96条中未決勾留により拘禁された者に対し喫煙を禁止する規定が憲法13条に違反するものといえない」としている(最大判昭45.9.16 憲法百選Ⅰ〔第6版〕15事件)。よって,本記述は正しい。
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民法錯誤に関して,判例の趣旨に照らすと,他にも連帯保証人となる者がいるとの債務者の説明を信じて連帯保証人となった者は,その旨が債権者に対して表示されていなくても,連帯保証契約について錯誤による取消しをすることができる。民法結果正解解説意思表示は,表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(以下「動機の錯誤」という。)に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができるが(民法95条1項2号),同号による取消しが認められるためには,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されている必要がある(同条2項)。判例は,平成29年改正前民法下における本記述と同様の事例において,「保証契約は,保証人と債権者との間に成立する契約であって,他に連帯保証人があるかどうかは,通常は保証契約をなす単なる縁由にすぎず,当然にはその保証契約の内容となるものではない」として,他に連帯保証人がいるとの誤信は,動機の錯誤であるとしている(最判昭32.12.19 民法百選Ⅰ〔第5版新法対応補正版〕17事件)。したがって,他にも連帯保証人となる者がいるとの債務者の説明を信じて連帯保証人となった者は,その旨が債権者に対して表示されていない場合,連帯保証契約について錯誤による取消しをすることはできない。よって,本記述は誤りである。参考四宮・能見(民法総則)253頁。
我妻・有泉コメ205頁。
一問一答(民法(債権関係)改正)22~23頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者が,懲役5年の言渡しを受けた場合,その刑の全部の執行を猶予することはできない。刑法結果正解解説初度の刑の全部の執行猶予は,裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間を定めて,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けた者に対してすることができる(刑法25条1項柱書)。したがって,懲役5年の言渡しを受けた場合には,その刑の全部の執行を猶予することはできない。よって,本記述は正しい。参考西田(総)461~462頁。
松宮(総)350~351頁。
基本刑法Ⅰ448頁。
条解刑法52~54頁。
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設問
解答
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憲法日本国憲法が「法の支配」の原理に立脚していることは,憲法の最高法規性の明確化,不可侵の人権の保障,司法権の拡大強化等からみて明らかである。憲法結果正解解説日本国憲法は,①憲法の最高法規性の明確化(同98条1項),②不可侵の人権の保障(同3章),③適正手続の保障(同31条),④司法権の拡大強化(司法裁判所によるあらゆる法律上の争訟の裁判)(同76条),及び,⑤裁判所の違憲審査制の確立(同81条)からみて「法の支配」の原理に立脚していることが明らかであるといえる。よって,本記述は正しい。参考芦部(憲法)13~14頁。
佐藤幸(日本国憲法論)74頁。
芦部(憲法学Ⅰ)111頁。 -
民法安易な認知を防止し,また認知者の意思によって認知された子の身分関係が不安定となることを防止する必要があるので,血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした者は,自らした認知の無効を主張することができない。民法結果正解解説子その他の利害関係人は,認知に対して反対の事実を主張することができる(民法786条)。判例は,同条の「利害関係人」に認知者自身が含まれるかが争われた事例において,「認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができる」とし,「この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異なるところはない」としている(最判平26.1.14 民法百選Ⅲ〔第2版〕33事件)。その理由として,同判決は,「血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は無効というべきであるところ,認知者が認知をするに至る事情は様々であり,自らの意思で認知したことを重視して認知者自身による無効の主張を一切許さないと解することは相当でない」ことや,「認知を受けた子の保護の観点からみても,あえて認知者自身による無効の主張を一律に制限すべき理由に乏し」いこと,及び,認知者が当該認知の効力について強い利害関係を有することは明らかであるし,認知者による血縁上の父子関係がないことを理由とする認知の無効の主張が,認知の取消しを禁止する同785条によって制限されると解することもできないことなどを挙げている。よって,本記述は誤りである。
なお,同判決における大橋正春裁判官の反対意見は,認知者の意向によって被認知者の地位を不安定にすることを許してよいかという点で,「認知した父は子その他の利害関係人とは全く異なる立場に立つのであるから,他の利害関係人に認められるから当然に認知した父にも認めるべきであるということにはならない」こと等を理由として,認知者は,血縁上の父子関係が存在しないことを理由として認知の無効を主張することができないとしている。参考リーガルクエスト(親族・相続)140頁。 -
刑法甲は,乙から,乙が海中に取り落した腕時計の引き揚げを依頼されて,落下場所の大体の位置について指示を受けた。甲が,その腕時計をその付近で発見し,乙に知らせずに,自己のものとした場合,甲には窃盗罪が成立する。刑法結果正解解説判例は,本記述と同様の事例において,原判決の「海中に取り落した物件については,落主の意に基づきこれを引揚げようとする者が,その落下場所の大体の位置を指示し,その引揚方を人に依頼した結果,該物件がその附近で発見されたときは,依頼者は,その物件に対し管理支配意思と支配可能な状態とを有するものといえるから,依頼者は,その物件の現実の握持なく,現物を見ておらず且つその物件を監視していなくとも,所持すなわち事実上の支配管理を有するものと解すべき」旨の判示を正当としている(最決昭32.1.24)。したがって,甲には窃盗罪が成立する。よって,本記述は正しい。参考高橋(各)242頁。
新基本法コメ(刑法)521頁。
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設問
解答
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憲法刑事補償に関して,最高裁判所の判例によれば,不起訴となった事実に基づく抑留又は拘禁であっても,そのうちに実質上は無罪となった事実についての抑留又は拘禁であると認められるものがあるときは,その部分は,憲法第40条の「抑留又は拘禁」に含まれる。憲法結果正解解説判例は,ある公訴事実について無罪を言い渡された被告人が,当該公訴事実において,不起訴処分となった別の被疑事実の勾留中に取り調べられた事実が内容とされているとして,その勾留に対する刑事補償請求をしたことにつき,その可否が争われた事例において,「憲法40条は,「……抑留又は拘禁された後,無罪の裁判を受けたとき……」と規定しているから,抑留または拘禁された被疑事実が不起訴となった場合は同条の補償の問題を生じない」とした上で,しかし,「憲法40条にいう「抑留又は拘禁」中には,無罪となった公訴事実に基く抑留または拘禁はもとより,たとえ不起訴となった事実に基く抑留または拘禁であっても,そのうちに実質上は,無罪となった事実についての抑留または拘禁であると認められるものがあるときは,その部分の抑留及び拘禁もまたこれを包含する」としている(最大決昭31.12.24 憲法百選Ⅱ〔第6版〕134事件)。よって,本記述は正しい。
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民法契約の申込みの意思表示は,申込みの通知が相手方に到達した後に,申込者が死亡した場合において,相手方が承諾の通知を発するまでにその事実を知ったとしてもその効力を失わない。民法結果正解解説申込者が申込みの通知を発した後に死亡した場合において,相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは,その申込みは,その効力を生じない(民法526条)。そして,同条は,通知が相手方に到達した後に申込者が死亡した場合についても適用される。したがって,本記述において,相手方が承諾の通知を発するまでに申込者の死亡を知ったときは,申込みは,その効力を生じない。よって,本記述は誤りである。参考中田(契約)89~90頁。
一問一答(民法(債権関係)改正)219~220頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,甲は,精神の障害により通常の判断能力のないVの殺害を計画し,Vに対し,首を吊ってもしばらくすれば生き返るとだまして,Vに首を吊らせて窒息死させた。この場合,甲には,自殺教唆罪が成立する。刑法結果正解解説殺人行為は,間接正犯の方法でも行うことができるところ,判例は,本記述と同様の事例において,「第一審判決は,本件被害者が通常の意思能力もなく,自殺の何たるかを理解しない者であると認定したのであるから,判示事実に対し刑法202条を以て問擬しないで同法199条を適用したのは正当であ」るとして,殺人罪の間接正犯の成立を認めている(最決昭27.2.21)。本記述においては,自殺教唆のような外形を呈しているものの,被害者に自殺の意味を理解する能力がない以上,甲には自殺教唆罪(同202条前段)ではなく殺人罪(同199条)が成立する。よって,本記述は誤りである。参考高橋(総)437頁。
基本刑法Ⅰ161頁。
基本刑法Ⅱ13~14頁。
新基本法コメ(刑法)436頁。
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設問
解答
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憲法最高裁判所の判例の趣旨に照らすと,犯行当時少年であった者の経歴等に関する記事について,仮名を用いて週刊誌に掲載した場合,それが少年法第61条が禁止する推知報道に該当するか否かは,少年と面識を有する特定の読者が,その者が当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準として判断すべきである。憲法結果正解解説判例は,出版社が犯行時に少年であった者の犯行態様,経歴等を記載した記事を実名類似の仮名を用いて週刊誌に掲載したことが,少年法61条が禁止する推知報道に該当するかどうかなどが争われた事例において,「少年法61条に違反する推知報道かどうかは,その記事等により,不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべき」としている(最判平15.3.14 長良川事件報道訴訟 憲法百選Ⅰ〔第6版〕71事件)。よって,本記述は誤りである。
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民法A,B及びCが各3分の1の持分で甲土地を共有している場合に関して,判例の趣旨に照らすと,裁判所に請求して甲土地の分割をする場合,甲土地をA及びBの共有として,A及びBからCに対して持分の価格を賠償させる方法によることはできない。民法結果正解解説共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは,その分割を裁判所に請求することができる(民法258条1項)。この裁判による分割においては,現物分割が原則であり,例外として共有物の競売による代金分割のみが認められている(同条2項)。しかし,同条は,これ以外の例外を否定する趣旨ではなく,最も適切な共有関係の解消方法を探るべきであると解されている。判例も,「当該共有物の性質及び形状,共有関係の発生原因,共有者の数及び持分の割合,共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値,分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し,当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ,かつ,その価格が適正に評価され,当該共有物を取得する者に支払能力があって,他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは,共有物を共有者のうちの1人の単独所有又は数人の共有とし,これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法,すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される」としており(最判平8.10.31 民法百選Ⅰ〔第8版〕76事件),同条が予定していない分割方法を認めている。よって,本記述は誤りである。参考佐久間(物権)216~218頁。
平野(総則)335~337頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,罪刑法定主義は,民主主義の原理と自由主義の原理によって根拠付けられる。刑法結果正解解説罪刑法定主義とは,犯罪と刑罰は法律で事前に定めておかなければならないという原則である。民主主義の原理は,国民の代表である国会において法律を定めるという原理として理解されるところ,この原理は,犯罪と刑罰を定める刑法にも妥当する。つまり,刑罰法規は国民自身が議会を通じて法律で決定しなければならないことになる(法律主義)。また,自由主義の原理は,事前に何が禁止され,何が許されるかを国民に予告することによって,国民が予測可能性を持つことができるという自由主義的要請である。このことから,行為後に制定された刑罰法規を,制定前の行為に遡及的に適用して,その行為を犯罪として処罰することも禁止される(遡及処罰の禁止)。このように,罪刑法定主義は,民主主義の原理と自由主義の原理に根拠付けられる。よって,本記述は正しい。参考高橋(総)31~32頁。
基本刑法Ⅰ13~14頁。
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設問
解答
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憲法最高裁判所の判例の趣旨に照らすと,強制加入団体である税理士会が政治団体に金員を寄附することは,たとえ税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても,税理士会の目的の範囲外の行為である。憲法結果正解解説判例は,強制加入団体である税理士会が政党など政治資金規正法(以下「規正法」という。)上の政治団体に金員を寄附することが,税理士会の目的の範囲内の行為といえるかなどが問題となった事例において,「政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは,選挙における投票の自由と表裏を成すものとして,会員各人が市民としての個人的な政治的思想,見解,判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである」とし,「税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは,たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても,……税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない」としている(最判平8.3.19 南九州税理士会政治献金事件 憲法百選Ⅰ〔第6版〕39事件)。よって,本記述は正しい。
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民法判例の趣旨に照らすと,主たる債務者から委託を受けた保証人が,主たる債務者に対して事前求償権を取得した後に当該保証人が免責行為によって事後求償権を取得した場合,これらの両求償権は同一の権利であるから,その消滅時効は,事前求償権が発生しこれを行使することができる時から進行する。民法結果正解解説判例は,主たる債務者から委託を受けて保証をした保証人(以下「委託を受けた保証人」という。)が,弁済その他自己の出捐をもって主たる債務を消滅させるべき行為(以下「免責行為」という。)をしたことにより,民法459条1項の規定に基づき主たる債務者に対して取得する求償権(以下「事後求償権」という。)は,免責行為をしたときに発生し,かつ,その行使が可能となるものであるから,その消滅時効は,委託を受けた保証人が免責行為をした時から進行するものと解すべきであり,このことは,委託を受けた保証人が,同460条各号所定の事由,又は主たる債務者との合意により定めた事由が発生したことに基づき,主たる債務者に対して免責行為前に求償をし得る権利(以下「事前求償権」という。)を取得したときであっても異なるものではないとしている(最判昭60.2.12 昭60重判民法1事件)。その理由として,同判決は,「事前求償権は事後求償権とその発生要件を異にするものであることは前示のところから明らかであるうえ,事前求償権については,事後求償権については認められない抗弁が付着し,また,消滅原因が規定されている(同法461条参照)ことに照らすと,両者は別個の権利であり,その法的性質も異なるものというべきであり,したがって,委託を受けた保証人が,事前求償権を取得しこれを行使することができたからといって,事後求償権を取得しこれを行使しうることとなるとはいえない」ことを挙げている。よって,本記述は誤りである。参考潮見(プラクティス債総)651~652頁。
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刑法判例の立場に従って検討した場合,従犯に対し,正犯者に言い渡される具体的宣告刑より重い刑が言い渡されることはあり得ない。刑法結果正解解説「従犯の刑は,正犯の刑を減軽する。」とされている(刑法63条)。「正犯の刑を減軽する」とは,正犯に対する法定刑に法律上の減軽(同68条以下)を施して従犯の処断刑を定めるという趣旨である。したがって,従犯に対し,正犯者に言い渡される具体的宣告刑より重い刑が言い渡されることもあり得る(大判昭13.7.19)。よって,本記述は誤りである。参考大谷(講義総)450頁。
基本刑法Ⅰ356~357頁。
条解刑法243頁。
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設問
解答
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憲法最高裁判所の判例によれば,未決拘禁者が刑事施設内で特定の新聞を私費により定期購読することを同施設の長が制限することが許されるのは,その閲読を許すことにより刑事施設内の規律及び秩序の維持に明白かつ現在の危険を生ずる蓋然性が認められる場合に限られる。憲法結果正解解説判例は,未決拘禁者が私費で定期購読している新聞のある特定の記事について,刑事施設の長が全面的に抹消したことから,その抹消処分は当該未決拘禁者の知る権利を侵害するとして争われた事例において,新聞等の閲読の自由が憲法19条や同21条の規定の趣旨,目的からその派生原理として導かれるとした上で,被拘禁者の新聞等の閲読の自由を制限することが許されるためには,当該閲読を許すことにより監獄(現:刑事施設)内の「規律及び秩序が害される一般的,抽象的なおそれがあるというだけでは足りず,被拘禁者の性向,行状,監獄内の管理,保安の状況,当該新聞紙,図書等の内容その他の具体的事情のもとにおいて,その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり,かつ,その場合においても,右の制限の程度は,右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべき」としている(最大判昭58.6.22 よど号ハイジャック記事抹消事件 憲法百選Ⅰ〔第6版〕16事件)。したがって,同判決は,刑事施設の長が未決拘禁者の新聞等の閲読の自由を制限するための要件について,刑事施設内の規律及び秩序に明白かつ現在の危険を生ずる蓋然性が認められる場合に限られるとはしていない。よって,本記述は誤りである。
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民法精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分であるとして,本人が,保佐開始の審判を請求した場合であっても,家庭裁判所は,請求者本人が,精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあると認めるときは,保佐開始の審判をすることができない。民法結果正解解説民法11条本文は,「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については,家庭裁判所は,本人……の請求により,保佐開始の審判をすることができる。」としている。もっとも,同条ただし書は,「第7条に規定する原因がある者については,この限りでない。」としている。本記述において,請求者である本人は,精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあると認められており,同条に規定する原因がある者に当たる。したがって,家庭裁判所は,保佐開始の審判をすることができない。よって,本記述は正しい。参考我妻・有泉コメ65頁。
新注釈民法(1)517~518頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,相手方から急迫不正の侵害を受けた者が,相手方に対し専ら攻撃の意思で反撃を行った場合,正当防衛が成立する余地はない。刑法結果正解解説「防衛するため」の行為といえるために,防衛の意思が必要か否かについては学説上争いがあるが,判例は一貫して必要説に立っている(大判昭11.12.7等)。そして,防衛の意思の内容について,判例は明確な定義を示していないが,急迫不正の侵害を受けた者が「憤激または逆上して反撃を加えたからといって,ただちに防衛の意思を欠くものと解すべきではない」(最判昭46.11.16 刑法百選Ⅰ〔初版〕36事件)とし,「防衛の意思と攻撃の意思が併存している場合の行為は,防衛の意思を欠くものではない」としている(最判昭50.11.28 刑法百選Ⅰ〔第7版〕24事件)。もっとも,判例は,「攻撃を受けたのに乗じ積極的な加害行為に出たなどの特別な事情」があるとき(前掲最判昭46.11.16)や,「防衛に名を借りて侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為」(前掲最判昭50.11.28)については,防衛の意思は認められないとしている。したがって,専ら攻撃の意思で反撃行為がなされたときには防衛の意思は認められず,正当防衛が成立する余地はない。よって,本記述は正しい。参考大谷(講義総)283~284頁。
井田(総)309~310頁。
高橋(総)287頁。
基本刑法Ⅰ187頁,189頁。
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設問
解答
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憲法最高裁判所の判例によれば,市町村長は,原則として転入届を受理しなければならないが,地域の秩序が破壊され住民の生命や身体の安全が害される危険性が高度に認められるような特別の事情がある場合には,これを受理しないことが許される。憲法結果正解解説判例は,ある宗教団体の信者が転入届を政令指定都市内の区の区長に提出したが,区長が受理しなかったため,当該不受理処分の取消し及び国家賠償を請求した事例において,「住民基本台帳は,これに住民の居住関係の事実と合致した正確な記録をすることによって,住民の居住関係の公証,選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするものであるから」,区長は,転入届がされた場合には,その者に新たに当該区の区域内に住所を定めた事実があれば,法定の届出事項に係る事由以外の事由を理由として転入届を受理しないことは許されないとした上で,上告人(区長)の「地域の秩序が破壊され住民の生命や身体の安全が害される危険性が高度に認められるような特別の事情がある場合には,転入届を受理しないことが許される」という主張は「実定法上の根拠を欠く」としている(最判平15.6.26 地方自治百選〔第4版〕15事件)。よって,本記述は誤りである。参考佐藤幸(日本国憲法論)297頁。
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民法判例の趣旨に照らすと,債権を質権の目的とした場合,質権設定者は質権者に対し当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い,当該債権の放棄,免除,他の債務との相殺をすることができない。民法結果正解解説判例は,「債権が質権の目的とされた場合において,質権設定者は,質権者に対し,当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い,債権の放棄,免除,相殺,更改等当該債権を消滅,変更させる一切の行為その他当該債権の担保価値を害するような行為を行うことは,同義務に違反するものとして許されない」としている(最判平18.12.21 民法百選Ⅰ〔第8版〕83事件)。よって,本記述は正しい。参考道垣内Ⅲ116頁。
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刑法判例の立場に従って検討した場合,代表取締役が,権限を濫用して自己の利益を図るために有価証券を作成した場合,有価証券偽造罪が成立する。刑法結果正解解説代表取締役や支配人が,権限を濫用して自己又は第三者の利益を図るために有価証券を作成した場合,代表取締役や支配人は,本人の営業に関し,自己の代表・代理名義又は本人名義を使用して手形等を作成する一般的権限を法律上当然に有しており,客観的には権限の範囲内の行為であるから,作成名義に偽りはなく有価証券偽造罪(刑法162条1項)は成立しない(大連判大11.10.20)。よって,本記述は誤りである。参考西田(各)359頁。
基本刑法Ⅱ444頁。
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設問
解答
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憲法判例の趣旨に照らすと,酒類販売業の免許制は,酒類販売店の濫設に伴う酒類販売店相互間の過当競争によって招来されるであろう酒類販売店の共倒れから酒類販売店を保護するという積極目的に基づく規制である。憲法結果正解解説判例は,酒税法の定める酒類販売免許制度が憲法22条1項の定める職業選択の自由に違反するかが争われた事例において,「租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については,その必要性と合理性についての立法府の判断が,右の政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱するもので,著しく不合理なものでない限り,これを憲法22条1項の規定に違反するものということはできない」としている(最判平4.12.15 憲法百選Ⅰ〔第6版〕99事件)。したがって,同判決は,租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的を認定しているのであって,酒類販売店の共倒れから酒類販売店を保護するという積極目的を認定しているのではない。よって,本記述は誤りである。
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民法判例の趣旨に照らすと,離婚による財産分与には慰謝料を含めることもできるが,既になされた財産分与に慰謝料を含めた趣旨とは解されないか,又はその額及び方法において不十分と認められる場合には,別個に慰謝料を請求することができる。民法結果正解解説判例は,「裁判所が財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては,当事者双方におけるいっさいの事情を考慮すべきものであるから,分与の請求の相手方が離婚についての有責の配偶者であって,その有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被った精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには,右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできる」とし,「財産分与として,右のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には,さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰藉料の支払を請求したときに,その額を定めるにあたっては,右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならないのであり,このような財産分与によって請求者の精神的苦痛がすべて慰藉されたものと認められるときには,もはや重ねて慰藉料の請求を認容することはできない」としつつ,「財産分与がなされても,それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか,そうでないとしても,その額および方法において,請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには,すでに財産分与を得たという一事によって慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく,別個に不法行為を理由として離婚による慰藉料を請求することを妨げられない」としている(最判昭46.7.23 民法百選Ⅲ〔第2版〕18事件)。よって,本記述は正しい。参考リーガルクエスト(親族・相続)98~99頁。
新基本法コメ(親族)87~88頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,甲は,深夜,自己が所有する無人の倉庫に放火しようと考え,ポリタンクに灯油を入れてライターを持って同倉庫に向かっていたところ,甲に不審を抱いた警察官から職務質問を受け,同倉庫に放火するに至らなかった。この場合,甲には,放火予備罪(刑法第113条)は成立しない。刑法結果正解解説放火の罪の予備罪(刑法113条)は,現住建造物等放火罪(同108条)又は他人所有非現住建造物等放火罪(同109条1項)を犯す目的のある場合にのみ成立する。本記述において,甲が放火しようとしていたのは,自らが所有する無人の倉庫であり,自己所有の非現住建造物である。したがって,甲には,放火予備罪は成立しない。よって,本記述は正しい。参考条解刑法349頁。
正解率
科目名
科目名 正解率
解答日・解答結果
設問
解答
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憲法判例の趣旨に照らすと,現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると,婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。憲法結果正解解説判例は,夫婦が夫又は妻の氏を称すると定める民法750条が,憲法13条,14条1項,24条に反するかが争われた事例において,「氏は,個人の呼称としての意義があり,名とあいまって社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば,自らの意思のみによって自由に定めたり,又は改めたりすることを認めることは本来の性質に沿わないもの」であり,また,「氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば,氏が,親子関係など一定の身分関係を反映し,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,その性質上予定されている」とした上で,「現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると,婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえ」ず,民法750条の規定は,「憲法13条に違反するものではない」としている(最大判平27.12.16 平28重判憲法7事件)。よって,本記述は正しい。
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民法判例の趣旨に照らすと,保証人が法人ではない場合において,主たる債務者が期限の利益を喪失したときは,債権者は,保証人に対し,その利益の喪失を知った時から2か月以内に,その旨を通知しなければならない。民法結果正解解説民法458条の3第1項は,主たる債務者が期限の利益を有する場合において,その利益を喪失したときは,債権者は,保証人に対し,その利益の喪失を知った時から2か月以内に,その旨を通知しなければならない,と規定する。そして,同項は,保証人が法人である場合には,適用されない(同458条の3第3項)。保証人が早期に支払をすることで,多額の遅延損害金の発生を防ぐことを可能とするものであり,個人の保証人を保護する趣旨である。よって,本記述は正しい。
なお,上記通知は,債権者において,主債務者の期限の利益喪失を知った時から2か月以内に保証人に到達することが必要であり,債権者が,上記通知をしなかった場合又は上記通知が2か月以内に保証人に到達しなかった場合には,債権者は,遅延損害金についての保証債務の履行の請求について制限を受けることとなる(同458条の3第2項)。参考潮見(プラクティス債総)623~624頁。
一問一答(民法(債権関係)改正)133~134頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,甲は,オレンジジュースに睡眠薬の粉末及び麻酔薬を混入し,事情を知らない乙にこれを飲ませ,乙を意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状に陥らせた。乙が約6時間安静にするうちにその症状が完治した場合,甲には,傷害罪は成立しない。刑法結果正解解説傷害罪の「傷害」とは,被害者の健康状態を不良に変更し,その生活機能の障害を惹起することをいう(最決昭32.4.23 刑法百選Ⅱ〔第2版〕4事件)。判例は,本記述と同様の事例において,「被告人は,……被害者に対し,睡眠薬等を摂取させたことによって,約6時間又は約2時間にわたり意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせ,もって,被害者の健康状態を不良に変更し,その生活機能の障害を惹起した」として,傷害罪の成立を認めている(最決平24.1.30 刑法百選Ⅱ〔第7版〕5事件)。したがって,甲には,傷害罪が成立する。よって,本記述は誤りである。参考井田(各)47頁。
基本刑法Ⅱ31~32頁。
条解刑法590頁。
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設問
解答
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憲法憲法の規範内容が踏みにじられたり不当に変質させられたりしないようにする様々な国法上の工夫は,広く「憲法の保障」といわれるが,その代表的な方法や考え方に関して,憲法第99条で規定される憲法尊重擁護義務の主体として,国民が挙げられていないのは,国民に憲法に対する忠誠を要求することにより,国民の権利自由が侵害されることを恐れた結果であると考えることができる。憲法結果正解解説憲法99条は,「天皇又は摂政及び国務大臣,国会議員,裁判官その他の公務員は,この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と規定しており,憲法尊重擁護義務の主体として国民を挙げていない。そして,同条の主体として国民を挙げていない点について,国民に憲法に対する忠誠を要求することにより,国民の権利自由が侵害されることを恐れた結果であるとする見解などがある。よって,本記述は正しい。参考芦部(憲法)386頁。
佐藤幸(日本国憲法論)45~48頁。
野中ほか(憲法Ⅱ)400頁。 -
民法交通事故による損害賠償に関して,加害者が一定額を支払うと約し,被害者がその余の請求を放棄する旨の和解がなされた場合,その後,和解当時予想できなかった後遺症が生じ,損害が拡大したときであっても,被害者は当該後遺症の損害について賠償請求をすることができない。民法結果正解解説判例は,「一般に,不法行為による損害賠償の示談において,被害者が一定額の支払をうけることで満足し,その余の賠償請求権を放棄したときは,被害者は,示談当時にそれ以上の損害が存在したとしても,あるいは,それ以上の損害が事後に生じたとしても,示談額を上廻る損害については,事後に請求しえない趣旨と解するのが相当である」とした上で,「全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて,早急に小額の賠償金をもって満足する旨の示談がされた場合においては,示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は,示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであって,その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで,賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは,当事者の合理的意思に合致するものとはいえない」としている(最判昭43.3.15 民法百選Ⅱ〔第8版〕104事件)。同判決は示談契約の効力が問題となった事例であるが,被害者が一定額以上の損害賠償請求権を放棄したことが「譲歩」(民法695条)に当たるため,当該示談契約の法的性質は和解であると解される。したがって,同判決の採用した判断基準に従い,交通事故による損害賠償に関して和解がなされた場合であっても,その後,和解当時予想できなかった後遺症が生じ,損害が拡大したときは,当該後遺症の損害について賠償請求をすることができる。よって,本記述は誤りである。参考中田(契約)601~602頁。
我妻・有泉コメ1361~1362頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,盗品であることを知りながら,窃盗犯人から盗品を有償で譲り受けた者が,更にこれを運搬した場合,盗品等有償譲受け罪のほかに盗品等運搬罪が成立する。刑法結果正解解説判例は,本記述と同様の事例において,同一人が既に有償で取得した盗品を他に運搬することは,犯罪によって得たものの事後処分にすぎないのであって,刑法はかかる行為をも刑法256条2項によって処罰する法意でないことは明らかであるとしている(最判昭24.10.1)。したがって,盗品であることを知りながら,窃盗犯人から盗品を有償で譲り受けた者が,更にこれを運搬した場合,盗品等有償譲受け罪(同項)のみが成立する。よって,本記述は誤りである。参考山口(各)348頁。
大コメ(刑法・第3版)(13)749頁。
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設問
解答
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憲法地方公共団体の議会は,住民の代表機関であり,議決機関である点において国会と同じ性質を有しているため,国会が国権の最高機関であるのと同様に,地方自治権の最高機関たる地位にある。憲法結果正解解説地方公共団体の議会は,住民の代表機関であり,議決機関である点において国会と同じ性質を有している。しかし,地方公共団体の長は,住民により公選され,住民に対し直接責任を負うため(首長制),地方議会は執行機関たる長と独立対等の関係に立つとされる。したがって,国会が国権の最高機関であるのとは異なり,地方公共団体の議会は,地方自治権の最高機関たる地位にあるわけではない。よって,本記述は誤りである。参考野中ほか(憲法Ⅱ)373頁。
基本法コメ(憲法)421頁。 -
民法判例の趣旨に照らすと,建物の賃借人は,明確な合意のない限り,通常の使用及び収益によって生じた建物の損耗や建物の経年変化について原状回復義務を負わない。民法結果正解解説賃借人は,賃借物を受け取った後にこれによって生じた損傷がある場合において,賃貸借が終了したときは,その損傷を原状に復する義務を負う(民法621条本文)。賃借人が原状回復義務を負う「損傷」は,通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除いたものを指す(同条本文括弧書)。そして,通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化について賃借人に原状回復義務を負担させる要件について,判例は,「建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約……が明確に合意されていることが必要である」としている(最判平17.12.16 消費者法百選24①事件,平17重判民法8事件)。よって,本記述は正しい。参考中田(契約)396頁,404~405頁。
一問一答(民法(債権関係)改正)325頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,借金の返済に苦しんでいた甲は,別人を装って消費者金融会社から借入れを行うことを思い立ち,市役所職員乙に対し,虚偽の生年月日を記載した自己名義の住民異動届に,転入によって国民健康保険の被保険者の資格を取得した旨を付記して提出するなどして,これを誤信した乙から国民健康保険被保険者証の交付を受けた。この場合,甲には,詐欺罪が成立する。刑法結果正解解説判例は,文書の不正取得のうち,印鑑証明書や旅券など,単に証明の利益をもたらすにすぎない文書の不正取得については,詐欺罪の成立を否定している(大判大12.7.14,最判昭27.12.25)。しかし,保険医療機関に提示することにより医療費の負担軽減などの経済的利益を享受し得る国民健康保険被保険者証のように,財産的給付を取得し得る地位をもたらす文書を不正取得した事例においては,詐欺罪の成立を肯定している(最決平18.8.21)。したがって,甲には,詐欺罪が成立する。よって,本記述は正しい。参考山口(各)270~272頁。
基本刑法Ⅱ254頁。
条解刑法759頁。
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設問
解答
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憲法判例の趣旨に照らすと,憲法第26条第2項後段にいう「無償」とは,子女の保護者に対しその子女に普通教育を受けさせるにつき,その対価を徴収しないことを定めたものであり,教育提供に対する対価とは授業料を意味するものと認められるから,同項にいう無償とは,授業料不徴収の意味である。憲法結果正解解説判例は,「憲法26条2項後段の「義務教育は,これを無償とする。」という意義は,国が義務教育を提供するにつき有償としないこと,換言すれば,子女の保護者に対しその子女に普通教育を受けさせるにつき,その対価を徴収しないことを定めたものであり,教育提供に対する対価とは授業料を意味するものと認められるから,同条項の無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である」としている(最大判昭39.2.26 教科書費国庫負担請求事件 憲法百選Ⅱ〔第6版〕A6事件)。よって,本記述は正しい。
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民法養親が夫婦である場合において,離縁時に養子が18歳であるとき,協議上の離縁をするには,家庭裁判所の許可が必要であり,かつ,夫婦の一方がその意思を表示することができないときを除き,夫婦が共にしなければならない。民法結果正解解説民法は,普通養子縁組の養親が夫婦である場合において,未成年者と離縁をするときは,夫婦の一方がその意思を表示することができないときを除き,夫婦共同離縁を原則とする旨規定している(同811条の2)。もっとも,協議離縁について,同811条1項は,「縁組の当事者は,その協議で,離縁をすることができる」と規定するのみであり,子が未成年者である場合であっても,離縁につき家庭裁判所の許可は要件とされていない。よって,本記述は誤りである。
なお,養子となる者が未成年者である場合,縁組の成立について家庭裁判所の許可が原則として必要とされている(同798条本文)。参考リーガルクエスト(親族・相続)158頁。
窪田(家族法)257頁。
新基本法コメ(親族)178頁,180~181頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,緊急避難の要件である「現在の危難」は,法益に対する侵害が現実に存在することを意味し,侵害が差し迫っているだけでは足りない。刑法結果正解解説緊急避難の要件である「現在の危難」には,法益侵害が現実に存在する場合のみならず,法益侵害の危険が切迫している場合も含まれる。判例は,正当防衛にいう「急迫」(刑法36条1項)とは,「法益の侵害が間近に押し迫ったことすなわち法益侵害の危険が緊迫したことを意味する」とした上で,緊急避難の要件である「現在の危難」についてもこれと同様に解するとしている(最判昭24.8.18 刑法百選〔初版〕11事件)。よって,本記述は誤りである。参考山口(総)123頁,149頁。
基本刑法Ⅰ209頁。
条解刑法122頁。
正解率
科目名
科目名 正解率
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設問
解答
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憲法皇室に財産を譲り渡し,又は皇室が財産を譲り受け,若しくは賜与する場合,国会の議決に基づかなければならないが,この議決には,憲法上,衆議院の優越が認められている。憲法結果正解解説憲法8条は,「皇室に財産を譲り渡し,又は皇室が,財産を譲り受け,若しくは賜与することは,国会の議決に基かなければならない。」と規定している。これは,皇室に戦前のように巨大な財産が集中するのは好ましくないと考え,皇室と国民の間の財産授受に国会のコントロールを加えようとするものである。もっとも,法律や予算の議決の場合と異なり,この議決には,憲法上,衆議院の優越は認められておらず,衆議院と参議院の意見の一致が必要である(同59条2項,60条2項参照)。よって,本記述は明らかに誤りである。参考芦部(憲法)53頁。
佐藤幸(日本国憲法論)524頁。
野中ほか(憲法Ⅰ)144~145頁。
新基本法コメ(憲法)44~45頁。 -
民法判例の趣旨に照らすと,民法第94条第2項にいう「第三者」には,債権を他に仮装譲渡した者がその譲渡の無効を主張してその債権の弁済を求めた場合の債務者も含まれる。民法結果正解解説判例は,債権を他に仮装譲渡した者がその譲渡の無効を主張してその債権の弁済を求めた場合の債務者について, 債務者がその譲渡が虚偽であることを知っていたとしてもその譲受人に対し債務を負担することはなく,債務者が譲渡行為の目的たる債権につき法律上の利害関係を有するに至った者ということはできないとして,民法94条2項の「第三者」には当たらないとしている(大判昭8.6.16)。よって,本記述は誤りである。参考佐久間(総則)123頁。
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刑法甲は,乙が居住する家屋に放火しようと考え,乙の留守中に同家屋に忍び込み,マッチで畳に火をつけた。しかし,乙がその直後に帰宅し,急いで消火したため,畳だけが焼損した。この場合,判例の立場に従って検討すると,甲には,現住建造物等放火罪(刑法第108条)の未遂罪が成立する。刑法結果正解解説判例は,「建具その他家屋の従物が建造物たる家屋の一部を構成するものと認めるには,該物件が家屋の一部に建付けられているだけでは足りず更らにこれを毀損しなければ取り外すことができない状態にあることを必要とする」とした上で,「畳のごときは未だ家屋と一体となってこれを構成する建造物の一部といえない」として,畳を焼損するにとどまった場合には,現住建造物等放火罪の未遂罪(刑法112条,108条)の成立を認めている(最判昭25.12.14)。したがって,甲が乙所有の住居内の畳を焼損したとしても,甲には,現住建造物等放火罪の既遂罪は成立せず,現住建造物等放火罪の未遂罪が成立するにとどまる。よって,本記述は正しい。参考西田(各)317~318頁。
基本刑法Ⅱ366頁。
正解率
科目名
科目名 正解率
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設問
解答
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憲法国民主権の原理には,国家権力の正当性原理(正当性の契機)としての側面と国家権力の組織化原理(権力的契機)としての側面があり,この二つの側面を総合的に捉える見解によれば,国民主権の主体も二つの側面に対応して異なることになる。憲法結果正解解説国民主権の原理について,国家権力を正当化し権威付ける根拠は究極的に国民にあるという,国家権力の正当性原理(正当性の契機)としての側面と,国民が自ら直接に国の政治の在り方を終局的に決定するという,国家権力の組織化原理(権力的契機)としての二つの側面があるとし,これを総合的に捉える見解がある。この見解によれば,二つの側面に対応して,主権主体も二重化される。すなわち,前者における国民主権の主体は「全国民」であり,後者における国民主権の主体は,「有権者の全体」である。したがって,本記述のように主権概念を捉える見解によれば,二つの側面に対応して,国民主権の主体も異なることになる。よって,本記述は正しい。参考芦部(憲法)40~43頁。
佐藤幸(日本国憲法論)391頁。
野中ほか(憲法Ⅰ)90~94頁。
リーガルクエスト(憲法Ⅰ)78頁。 -
民法取得時効に関して,判例に照らすと,Aが,Bからその所有する甲土地を譲り受け,引渡しを受けて占有を開始した後,BがCにも甲土地を譲渡し,Cへの所有権移転登記をした場合において,Aは,その後も甲土地の占有を継続し,甲土地の占有を取得した時から民法所定の時効期間を経過したときは,甲土地の所有権を時効取得することができる。民法結果正解解説判例は,不動産が売主から第一の買主に譲渡され,その登記がされない間に,その不動産が売主から「第二の買主に二重に売却され,第二の買主に対し所有権移転登記がなされたときは,……登記の時に第二の買主において完全に所有権を取得するわけであるが,その所有権は,売主から第二の買主に直接移転するのであり,売主から一旦第一の買主に移転し,第一の買主から第二の買主に移転するものではなく,第一の買主は当初から全く所有権を取得しなかったことになる」とし,「したがって,第一の買主がその買受後不動産の占有を取得し,その時から民法162条に定める時効期間を経過したときは,同法条により当該不動産を時効によって取得しうる」としている(最判昭46.11.5 民法百選Ⅰ〔第8版〕57事件)。よって,本記述は正しい。参考佐久間(総則)402~403頁。
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刑法文書偽造の罪に関して,判例の立場に従って検討すると,甲は,運転免許証を持っていなかったため,行使の目的で,A県公安委員会が発行した乙の運転免許証の写真を自己の写真に貼り替え,生年月日を自己のものに変更した。この場合,甲には,有印公文書偽造罪が成立する。刑法結果正解解説判例は,本記述と同様の事例において,「特定人に交付された自動車運転免許証に貼付しある写真及びその人の生年月日の記載は,当該免許証の内容にして重要事項に属するのであるから,右写真をほしいままに剥ぎとり,その特定人と異なる他人の写真を貼り代え,生年月日欄の数字を改ざんし,全く別個の新たな免許証としたるときは,公文書偽造罪が成立する」としている(最決昭35.1.12)。したがって,甲には,有印公文書偽造罪(刑法155条1項)が成立する。よって,本記述は正しい。参考山口(各)444頁。
基本刑法Ⅱ400頁。
条解刑法433頁。
正解率
科目名
科目名 正解率
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設問
解答
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憲法住民に思想,意見等の情報を提供する公的な場である公立図書館は,そこで閲覧に供された図書の著作者にとっては,その思想,意見等を公衆に伝達する公的な場でもあるということができるから,公立図書館の職員が著作者の思想・信条を理由とする不公正な取扱いによって既に閲覧に供された図書を廃棄することは,当該図書の著作者の人格的利益を侵害する。憲法結果正解解説判例は,公立図書館の職員が勝手に図書を廃棄したことから,当該図書の著作者が国家賠償請求訴訟を提起した事例において,住民に対して思想,意見その他の種々の情報を含む図書館資料を提供してその教養を高めること等を目的とする公的な場である公立図書館は,「そこで閲覧に供された図書の著作者にとって,その思想,意見等を公衆に伝達する公的な場でもあるということができる」から,「公立図書館の図書館職員が閲覧に供されている図書を著作者の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いによって廃棄することは,当該著作者が著作物によってその思想,意見等を公衆に伝達する利益を不当に損なうものといわなければならない。そして,著作者の思想の自由,表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると,公立図書館において,その著作物が閲覧に供されている著作者が有する上記利益は,法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当であ」るとしている(最判平17.7.14 憲法百選Ⅰ〔第6版〕74事件)。よって,本記述は正しい。
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民法留置権者が留置物の一部を債務者に引き渡した場合,残余の留置物によって担保される被担保債権の範囲は,残余の留置物に対応する部分の被担保債権の限度である。民法結果正解解説留置権者は,債権の全部の弁済を受けるまでは,留置物の全部についてその権利を行使することができる(不可分性 民法296条)。そして,同条は,留置物が可分である場合や複数の物である場合にも適用されると解されている。判例も,土地の宅地造成工事を請け負った債権者が造成工事の完了した土地部分を順次債務者に引き渡した事例において,「留置権者が留置物の一部の占有を喪失した場合にもなお右規定(注:民法296条)の適用があるのであって,この場合,留置権者は,占有喪失部分につき留置権を失うのは格別として,その債権の全部の弁済を受けるまで留置物の残部につき留置権を行使し得る」としている(最判平3.7.16 平3重判民法1事件)。したがって,残余の留置物によって担保される留置権の被担保債権の範囲は,残余の留置物に対応する部分の債権に割合的に限定(減縮)されず,原則として債権の全部に及ぶ。よって,本記述は誤りである。
なお,同判決は,債権者が引渡しに伴って被担保債権の一部につき留置権による担保を失うことを承認した等の特段の事情がある場合には,例外的に被担保債権の範囲が限定されることを認めている。参考道垣内Ⅲ42頁。
我妻・有泉コメ507頁。 -
刑法判例の立場に従って検討した場合,銀行の預金・為替業務に従事する甲は,同行の為替担当係員乙に対して,あらかじめ偽造しておいた自己の口座宛ての振込依頼書を真正に作成されたもののように装い,他の正規の振込依頼書とともに回付して行使し,乙にその旨誤信させて,乙をして同行の為替端末機を操作させて振込入金を行わせ,自己の口座の預金残高を増加させた。この場合,甲には,電子計算機使用詐欺罪が成立する。刑法結果正解解説電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)は,詐欺利得罪の補充類型であるから,コンピュータによる処理の途中に人が介在し,その人に対する「欺」く行為(同246条2項,1項)及びその者の処分行為が認められる場合には,電子計算機使用詐欺罪ではなく,詐欺利得罪が成立する。本記述では,甲は,自己が偽造した振込依頼書を利用して,乙をして正規の振込依頼であると誤信させ,その手続を行わせたことから,乙に対する「欺」く行為及び乙の処分行為が認められる。したがって,甲には,詐欺利得罪が成立し,電子計算機使用詐欺罪は成立しない。よって,本記述は誤りである。参考山口(各)274頁。
基本刑法Ⅱ264頁。
正解率
科目名
科目名 正解率
解答日・解答結果
設問
解答
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憲法憲法の規範内容が踏みにじられたり不当に変質させられたりしないようにする様々な国法上の工夫は,広く「憲法の保障」といわれるが,その代表的な方法や考え方に関して,抵抗権は,その固有の意味において,国民による組織的な暴力・実力行使を伴うものであるとすると,実力の行使を公の武力の形でしか許さない現代の立憲的な憲法秩序の下では,多分に理念的な権利に属し,むしろ政治宣言としての意味を強く持つといえる。憲法結果正解解説抵抗権といわれるものの中には,①暴力の行使を伴わない受動的抵抗権,②暴力の行使を伴う能動的抵抗権,③現存の法理念を覆す攻撃的抵抗権の三つがあるとされる。抵抗権は,固有の意味では,②の能動的抵抗権を意味するところ,この意味における抵抗権は,国民による組織的な暴力・実力行使を伴うものであるから,実力の行使を公の武力の形でしか許さない現代の立憲的な憲法秩序の下では,抵抗権の行使を正当な反政府活動の手段として一般的に承認することはできず,その行使は極めて厳格な要件の下でのみ認めることができるにとどまる。その意味において,抵抗権は,多分に理念的な権利に属し,むしろ政治宣言としての意味を強く持つものといえる。よって,本記述は正しい。参考芦部(憲法)387~388頁。
野中ほか(憲法Ⅱ)402~403頁。
大石(憲法講義Ⅱ)12~13頁。 -
民法土地の売買契約が第三者の詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は,同時履行の関係にある。民法結果正解解説判例は,第三者による詐欺(民法96条2項)を理由に,売主が売買契約を取り消した場合において,当事者双方の原状回復義務(同121条,121条の2第1項)につき,「右各義務は,民法533条の類推適用により同時履行の関係にある」としている(最判昭47.9.7)。よって,本記述は正しい。参考中田(契約)155頁。
我妻・有泉コメ1076頁。 -
刑法公務員が,請託を受けて賄賂を収受し,他の公務員の職務について働き掛けを行った場合,その働き掛けは,他の公務員の裁量判断に不当な影響を及ぼす程度のものでは足りず,違法なものでなければ,あっせん収賄罪(刑法第197条の4)は成立しない。刑法結果正解解説あっせん収賄罪(刑法197条の4)は,「他の公務員に職務上不正な行為をさせるように,又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたこと」が必要である。そして,職務上不正な行為をする,又は相当の行為をしなかったというのは,積極的又は消極的行為によりその職務に違反する一切の行為を意味する(大判大6.10.23)。判例は,「公務員が,請託を受けて,公正取引委員会が同法(注:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)違反の疑いをもって調査中の審査事件について,同委員会の委員長に対し,これを告発しないように働き掛けることは,同委員会の裁量判断に不当な影響を及ぼし,適正に行使されるべき同委員会の告発及び調査に関する権限の行使をゆがめようとするものである」から,同条にいう「相当の行為をさせないようにあっせんをすること」に当たるとしている(最決平15.1.14 刑法百選Ⅱ〔第7版〕110事件)。よって,本記述は誤りである。参考基本刑法Ⅱ473~474頁。
条解刑法562頁。
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科目名 正解率
解答日・解答結果
設問
解答
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憲法学問の自由には,学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由とが含まれているが,憲法第23条は専ら大学における学問の自由を保障しているのであって,広く全ての国民に対して学問の自由を保障しているわけではない。憲法結果正解解説判例は,大学の構内で行われた演劇発表会に警察官が立ち入った行為が憲法23条に反しないかどうかが争われた事例において,「同条の学問の自由は,学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由とを含むものであって,同条が学問の自由はこれを保障すると規定したのは,一面において,広くすべての国民に対してそれらの自由を保障するとともに,他面において,大学が学術の中心として深く真理を探究することを本質とすることにかんがみて,特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨としたものである」としている(最大判昭38.5.22 ポポロ事件 憲法百選Ⅰ〔第6版〕91事件)。よって,本記述は誤りである。
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民法連帯債務者の一人に対する履行の請求によって生じた時効の完成猶予や更新の効力は,他の連帯債務者に対しても及ぶ。民法結果正解解説弁済その他債権者に満足を与える事由,自己の反対債権をもってする相殺,更改,混同を除く連帯債務者の一人について生じた事由は,債権者と他の連帯債務者の一人が別段の意思表示をした場合以外は,他の連帯債務者に対してその効力を生じない(民法441条)。したがって,連帯債務者の一人に対する履行の請求は,当事者に別段の合意がある場合を除き,他の連帯債務者に対してはその効力を生じない。よって,本記述は誤りである。参考潮見(プラクティス債総)569頁。
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刑法緊急避難の要件である「やむを得ずにした行為」とは,当該避難行為をする以外にはほかに方法がなく,かかる行動に出たことが条理上肯定し得る場合をいう。刑法結果正解解説判例は,「やむを得ずにした行為」(刑法37条1項本文)とは,「当該避難行為をする以外には他に方法がなく,かかる行動に出たことが条理上肯定し得る場合を意味する」としている(最大判昭24.5.18)。よって,本記述は正しい。参考基本刑法Ⅰ210~211頁。
条解刑法124頁。
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設問
解答
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憲法最高裁判所の判例によれば,憲法第51条の免責特権が保障されているとしても,国会議員が議院で行った質疑等において,個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があった場合には,当然に国の損害賠償責任が発生することになる。憲法結果正解解説判例は,国会議員が国会の質疑,演説,討論等の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言について国の損害賠償責任が争われた事例において,「質疑等においてどのような問題を取り上げ,どのような形でこれを行うかは,国会議員の政治的判断を含む広範な裁量にゆだねられている事柄とみるべきであって,たとえ質疑等によって結果的に個別の国民の権利等が侵害されることになったとしても,直ちに当該国会議員がその職務上の法的義務に違背したとはいえないと解すべきである。憲法51条は,……国会議員の発言,表決につきその法的責任を免除しているが,このことも,一面では国会議員の職務行為についての広い裁量の必要性を裏付けているということができる」とした上で,「国会議員が国会で行った質疑等において,個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても,これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではな」いとしている(最判平9.9.9 憲法百選Ⅱ〔第6版〕176事件)。よって,本記述は誤りである。
なお,同判決は,国の損害賠償責任が肯定されるためには,国会議員が,その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的を持って事実を摘示し,あるいは,虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど,国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とするとし,国の損害賠償責任が認められる可能性をかなり限定している。 -
民法建築途中の建前に第三者が材料を提供して独立の不動産である建物に仕上げた場合,当該建物所有権の帰属は,民法上の加工の法理によって決せられる。民法結果正解解説判例は,建物の建築工事請負人が建築途上においていまだ独立の不動産に至らない建前を築造したままの状態で放置していたのに,第三者がこれに材料を供して工事を施し,独立の不動産である建物に仕上げた場合における当該建物の所有権が何人に帰属するかは,主たる動産の所有者に合成物の所有権の帰属を認める動産の付合の規定(民法243条)によるのではなく,むしろ,加工者が材料の一部を供した場合における加工の規定(同246条2項)に基づいて決定すべきとしている(最判昭54.1.25 民法百選Ⅰ〔第8版〕72事件)。よって,本記述は正しい。参考佐久間(物権)189~190頁。
平野(物権)304~306頁。 -
刑法甲は,乙が居住する家屋に隣接する乙所有の無人の倉庫に灯油をまいて放火したところ,予想に反して乙居住の家屋に延焼した。この場合,甲には,延焼罪(刑法第111条第1項)が成立する。刑法結果正解解説刑法111条1項の延焼罪は,自己所有非現住建造物等放火罪(同109条2項)又は自己所有建造物等以外放火罪(同110条2項)を犯したときにのみ成立する。本記述において,甲が放火したのは乙所有の無人の倉庫であり,他人所有の非現住建造物である。したがって,甲には,延焼罪は成立せず,他人所有非現住建造物等放火罪が成立する。よって,本記述は誤りである。参考基本刑法Ⅱ387~388頁。
条解刑法347頁。
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解答日・解答結果
設問
解答
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憲法集会の用に供される公共施設において,当該公共施設の管理者が,主催者が集会を平穏に行おうとしているのに,その集会の目的や主催者の思想,信条等に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し,妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に当該公共施設の利用を拒むことは,憲法第21条の趣旨に反する。憲法結果正解解説最判平7.3.7(泉佐野市民会館事件 憲法百選Ⅰ〔第6版〕86事件)は,「主催者が集会を平穏に行おうとしているのに,その集会の目的や主催者の思想,信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し,妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことは,憲法21条の趣旨に反するところである」としている。よって,本記述は正しい。
なお,これはいわゆる「敵意ある聴衆の法理」という考え方であり,この考え方は,平穏な集会を行おうとしている者に対して一方的に実力による妨害がされる場合にのみ妥当し,集会に対する妨害行為が,施設を利用する側の違法な行為に起因して引き起こされる場合には,反対派の妨害行為による混乱のおそれを理由として施設の利用を拒むことも許されてよいというのが同判決の立場であるとの説明がなされている。参考平8最高裁解説(民事上)210頁。 -
民法保証に関して,判例の趣旨に照らすと,主たる債務者の債権者に対する債務の承認による時効の更新の効力は,保証人に対しては生じない。民法結果正解解説主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は,保証人に対しても,その効力を生ずる(民法457条1項)。したがって,債務の承認による時効の更新(同152条1項)の効力は,保証人に対しても生じる。よって,本記述は誤りである。参考潮見(プラクティス債総)633頁。
我妻・有泉コメ870~871頁。 -
刑法甲は,丙とけんかになり,丙の胸倉をつかみ顔面を多数回殴打したところ,丙がその場に倒れ込んだので,そのまま立ち去った。その直後,もともと丙に恨みを抱いていた乙は,偶然丙が倒れているのを発見し,丙の頭部を複数回蹴った。丙は,脳出血により死亡したが,死亡の原因となった傷害が,甲乙いずれの暴行により生じたかは不明であった。この場合,甲乙それぞれには,傷害罪が成立するにとどまる。刑法結果正解解説判例は,同時傷害の特例(刑法207条)の適用には,「各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること」と,「各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと」が必要であるとしている(最決平28.3.24 平28重判刑法6事件)。本記述において,甲は丙の顔面を多数回殴打し,乙は丙の頭部を複数回蹴っており,いずれも傷害結果を生じさせ得る危険性を包含する行為である。また,甲の暴行の直後に,乙が暴行しており,時間的・場所的近接性が認められるので,外形的には共同実行に等しいといえる。そして,判例は,傷害致死罪(同205条)にも同207条の適用を肯定している(最判昭26.9.20)。したがって,甲,乙には傷害致死罪が成立する。よって,本記述は誤りである。参考山口(各)51頁。
基本刑法Ⅱ35~36頁。
条解刑法595頁。
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科目名
科目名 正解率
解答日・解答結果
設問
解答
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憲法憲法改正についての国民の承認には,「その過半数の賛成」が必要であり,この「過半数」の意味については,有権者総数,投票総数,有効投票総数のいずれの過半数であるかが争われているが,日本国憲法の改正手続に関する法律は,投票総数説を採用している。憲法結果正解解説憲法改正が成立するためには,国民投票の「過半数の賛成」を得ることが必要である(憲法96条1項後段)。ここでの「過半数」の意味については,①有権者総数,②投票総数,③有効投票総数のいずれの過半数かで学説が分かれている。そして,日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)126条1項は,「国民投票において,憲法改正案に対する賛成の投票の数が第98条第2項に規定する投票総数の2分の1を超えた場合は,当該憲法改正について日本国憲法第96条第1項の国民の承認があったものとする。」とし,国民投票法98条2項は「投票総数」を「憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数」と定義していることから,③説を採用したことになる。よって,本記述は誤りである。参考芦部(憲法)407~408頁。
佐藤幸(日本国憲法論)37頁。
野中ほか(憲法Ⅱ)410頁。
新基本法コメ(憲法)503~504頁。 -
民法売買の目的物が他人の物であるため,直ちにその物の所有権を取得することができないことを知りながら買主がその物の占有を開始した場合,その占有は所有の意思をもってする占有とはいえないから,取得時効は成立しない。民法結果正解解説取得時効の成立には,所有の意思をもってする占有が,民法所定の期間継続することが必要である(民法162条)。判例は,「占有における所有の意思の有無は,占有取得の原因たる事実によって外形的客観的に定められるべきものであり,土地の買主が売買契約に基づいて目的土地の占有を取得した場合には,右売買が他人の物の売買であるため売買によって直ちにその所有権を取得するものではないことを買主が知っている事実があっても,買主において所有者から土地の使用権の設定を受けるなど特段の事情のない限り,買主の占有は所有の意思をもってするものとすべきであって,右事実は,占有の始め悪意であることを意味するにすぎない」としている(最判昭56.1.27)。よって,本記述は誤りである。参考我妻・有泉コメ315頁。
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刑法勾留状によって拘置所に勾留されていた甲は,面会者から密かに差し入れられた甲の房の合い鍵を使用して房の扉を開け,同拘置所から逃走した。この場合,甲には,加重逃走罪(刑法第98条)が成立する余地はない。刑法結果正解解説甲は,勾留状によって拘置所に勾留されている者であるから,「裁判の執行により拘禁された……未決の者」(刑法97条)に当たり,加重逃走罪の主体となる。そして,拘禁場等の損壊を手段とする加重逃走罪が成立するためには,拘禁場若しくは拘束のための器具を「損壊」して逃走することを要するところ,同罪における「損壊」とは,物理的損壊に限られると解されている(広島高判昭31.12.25)。本記述における甲は,面会者から密かに差し入れられた合い鍵を用いて房の扉を開けて逃走したのであり,扉ないし錠を損壊して逃走したのではない。したがって,甲に加重逃走罪が成立する余地はない。よって,本記述は正しい。参考基本刑法Ⅱ542頁。
条解刑法305~306頁。
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設問
解答
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憲法憲法第93条第2項にいう「住民」とは,地方公共団体の区域内に住所を有する者を意味すると解すべきであるから,同項は,我が国に在留する外国人に対して,地方公共団体の長,その議会の議員等の選挙の権利を保障したものである。憲法結果正解解説判例は,外国籍を有する者らが,居住地の選挙人名簿に登録されていなかったため,選挙管理委員会に対し,選挙人名簿に登録するよう異議の申出をしたところ,これを却下する決定を受けたため,同決定の取消しを求めた事例において,「憲法93条2項にいう「住民」とは,地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり,右規定は,我が国に在留する外国人に対して,地方公共団体の長,その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない」としている(最判平7.2.28 憲法百選Ⅰ〔第6版〕4事件)。よって,本記述は誤りである。
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民法売主が,目的物の引渡しの提供をした上,民法第541条の規定に従い相当期間を定めて代金の支払を催告した場合において,催告期間の経過後,解除権行使前に,買主から債務の本旨に従った弁済の提供を受けたときは,特段の事情がない限り,売主は,これを拒絶して解除権を行使することはできない。民法結果正解解説判例は,民法541条に従って相当の期間を定めて債務の履行を催告した場合において,催告期間内に履行がないとしても,そのことは,解除権を発生させるにとどまり,その解除権の行使がない間は,契約は,なお依然として存続するのが原則であって,その期間内に履行がないことの一事をもって当然解除されるべき特別の事情がない限り,債権者はなお債務の履行を請求することができると同時に,債務者もまたその債務を履行することができるのであるから,原則として,催告期間経過後,解除権行使前における債務の履行は,債権者においてこれを拒むことができず,既にその履行があったときは,解除権を行使することはできないとしている(大判大6.7.10 売買(動産)百選89事件)。よって,本記述は正しい。参考中田(契約)244頁。
我妻・有泉コメ1108頁。 -
刑法甲は,乙が郵便局に提出するために作成した転居届を破り捨てた。この場合,甲には私用文書毀棄罪が成立する。刑法結果正解解説私用文書等毀棄罪(刑法259条)の客体は,「権利又は義務に関する他人の文書」等である。そして,権利又は義務に関する文書とは,権利・義務の存否・得喪・変更を証明するための文書をいい,私文書偽造等罪(同159条)と異なり,単なる「事実証明に関する文書」を含まない。郵便局への転居届は,居所移転という事実証明に関する文書である(大判明44.10.13)。したがって,本記述において,甲が破り捨てた転居届は,「権利又は義務に関する他人の文書」に当たらず,甲には私用文書毀棄罪は成立しない。よって,本記述は誤りである。参考西田(各)302頁,394頁。
高橋(各)446~447頁,537頁。
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科目名
科目名 正解率
解答日・解答結果
設問
解答
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憲法判例は,衆議院の小選挙区選挙において,候補者以外に候補者届出政党にも独自の選挙運動が認められているのは,選挙制度を政策本位,政党本位のものにするという国会が正当に考慮し得る政策的目的ないし理由によるものであると解されるのであって,十分合理性を是認し得るとしている。憲法結果正解解説判例は,衆議院小選挙区選出議員の選挙において候補者届出政党に選挙運動を認める公職選挙法の規定の合憲性が争われた事例において,「憲法は,政党について規定するところがないが,その存在を当然に予定しているものであり,政党は,議会制民主主義を支える不可欠の要素であって,国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから,国会が,衆議院議員の選挙制度の仕組みを決定するに当たり,政党の右のような重要な国政上の役割にかんがみて,選挙制度を政策本位,政党本位のものとすることは,その裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。そして,選挙運動をいかなる者にいかなる態様で認めるかは,選挙制度の仕組みの一部を成すものとして,国会がその裁量により決定することができる」とした上で,公職選挙法の規定によれば,「小選挙区選挙においては,候補者のほかに候補者届出政党にも選挙運動を認めることとされているのであるが,政党その他の政治団体にも選挙運動を認めること自体は,選挙制度を政策本位,政党本位のものとするという国会が正当に考慮し得る政策的目的ないし理由によるものであると解されるのであって,十分合理性を是認し得る」としている(最大判平11.11.10 憲法百選Ⅱ〔第6版〕157②事件)。よって,本記述は正しい。
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民法更改後の債務について不履行がある場合には,債権者は,更改契約を解除することができるが,更改前の債務は復活しない。民法結果正解解説判例は,更改もまた1つの契約であるから,契約の解除に関する一般規定に従って解除することができ,契約の解除は,当該契約に基づく法律関係を遡及的に消滅させて,同契約締結以前の状態に復帰させる効力を有するものであって,更改に限って別異の取扱いをする理由は特にないから,更改契約が適法に解除された契約当事者間にあっては,更改によって生じた債務が消滅すると同時に更改前の債務関係が当然に復活するとしている(大判昭3.3.10)。よって,本記述は誤りである。参考基本法コメ(債総)236頁。
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刑法甲は,夜間,Vを自動車後部のトランク内に監禁し,見通しのよい道路上に同車を停車させていたところ,同車に後方から乙の運転する自動車が,乙の居眠り運転という重大な過失行為により追突したため,その衝撃によりVは死亡した。この場合,Vの直接の死亡原因が乙車による追突により生じているから,甲の監禁行為とVの死亡の結果との間には因果関係がない。刑法結果正解解説判例は,本記述と同様の事例において,「被害者の死亡原因が直接的には追突事故を起こした第三者の甚だしい過失行為にあるとしても,道路上で停車中の普通乗用自動車後部のトランク内に被害者を監禁した本件監禁行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる」としている(最決平18.3.27 刑法百選Ⅰ〔第7版〕11事件)。したがって,甲の監禁行為とVの死亡の結果との間には因果関係が認められる。よって,本記述は誤りである。参考山口(総)66頁。
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科目名 正解率
解答日・解答結果
設問
解答
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憲法農業災害補償法の定める水稲耕作者の農業共済組合への当然加入制は,米の生産の確保と自作農の経営の保護を目的とするものであるところ,職業の遂行それ自体を禁止するものではなく,職業活動に付随して,その規模等に応じて一定の負担を課するという規制の態様や,共済掛金の一部国庫負担や政府による再保険といった制度の内容などに照らせば,著しく不合理であることが明白であるとはいえない。憲法結果正解解説判例は,水稲等の耕作の業務を営む者について農業共済組合への当然加入制を定める農業災害補償法の規定が憲法22条1項に違反するかが争われた事例において,農業災害補償法が当然加入制を採用した趣旨は,「国民の主食である米の生産を確保するとともに,水稲等の耕作をする自作農の経営を保護することを目的と」するものであるとした上で,「当然加入制は,もとより職業の遂行それ自体を禁止するものではなく,職業活動に付随して,その規模等に応じて一定の負担を課するという態様の規制であること,組合員が支払うべき共済掛金については,国庫がその一部を負担し,災害が発生した場合に支払われる共済金との均衡を欠くことのないように設計されていること,甚大な災害が生じた場合でも政府による再保険等により共済金の支払が確保されていること」などに照らすと,当然加入制の採用は,「公共の福祉に合致する目的のために必要かつ合理的な範囲にとどまる措置ということができ,立法府の政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であることが明白であるとは認め難い」として,憲法22条1項に違反しないとしている(最判平17.4.26 平17重判憲法8事件)。よって,本記述は正しい。参考芦部(憲法)236頁。
野中ほか(憲法Ⅰ)480頁。
リーガルクエスト(憲法Ⅱ)289頁。 -
民法16歳のAが,法定代理人の同意を得ることなくBとの間で10万円を借り入れる契約を締結し,受領した10万円を生活費として全額費消した場合において,当該契約締結から1か月後,Aの法定代理人が,AB間の当該契約を取り消したときは,Aは,Bに対し,借りた10万円を返還しなくてもよい。民法結果正解解説取り消された行為は,初めから無効であったものとみなされる(民法121条本文)。ただし,制限行為能力者である未成年者(同20条1項参照)は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う(同121条ただし書)。そして,判例は,制限行為能力者が,取り消すことができる法律行為により相手方から受領した金員をもって,自己の他人に対する債務を弁済し又は必要な生活費として支出したときは,制限行為能力者はその法律行為により現に利益を受けているものということができるとし,当該法律行為を取り消した以上,同条によりその弁済又は支出した金員を相手方に償還する義務を負うとしている(大判昭7.10.26 民法百選Ⅰ〔第5版新法対応補正版〕39事件)。したがって,本記述において,Aは,受領した10万円を生活費として全額費消しているから,Bに対してこれを返還する義務を負う。よって,本記述は誤りである。参考佐久間(総則)103~104頁,227頁。
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刑法甲は,自宅の近隣で起こった窃盗事件について,捜査機関の取調べを受けた際,乙に刑事処分を受けさせる目的で,乙がその犯人である旨の虚偽の回答をした。この場合,甲には虚偽告訴等罪は成立しない。刑法結果正解解説刑法172条にいう「申告」は,自発的に行う必要があり,捜査機関等の取調べを受けて虚偽の回答をすることはこれに当たらない。したがって,甲には虚偽告訴等罪は成立しない。よって,本記述は正しい。参考山口(各)601頁。
山中(各)822頁。
大コメ(刑法・第3版)(8)423頁。
正解率
科目名
科目名 正解率
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設問
解答
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憲法皇位の継承につき世襲制を採用すること及び皇位継承の資格につき男系男子主義を採用することについて,憲法は何ら規定しておらず,専ら皇室典範の定めるところに委ねている。憲法結果正解解説憲法2条は,「皇位は,世襲のものであつて,国会の議決した皇室典範の定めるところにより,これを継承する。」とし,皇位の継承につき世襲制を採用している。よって,本記述は誤りである。
なお,皇位継承の資格者については,憲法は定めておらず,皇室典範が「皇統に属する男系の男子」(同1条)の「皇族」(同2条柱書)が皇位を継承する(男系男子主義)旨定めている。参考芦部(憲法)46頁。
佐藤幸(日本国憲法論)512~514頁。
野中ほか(憲法Ⅰ)113頁。 -
民法Aが所有する甲土地上に,権原なく乙建物を建築して所有することにより甲土地を不法占拠するBが,乙建物につき自己名義で所有権保存登記をした上で,乙建物を第三者Cに譲渡して引き渡した場合でも,Bが引き続き乙建物の登記名義を保有するときには,Aは,Bに対して建物収去土地明渡請求をすることができる。民法結果正解解説判例は,「土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには,現実に建物を所有することによってその土地を占拠し,土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである」が,「他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には,たとい建物を他に譲渡したとしても,引き続き右登記名義を保有する限り,土地所有者に対し,右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である」としている(最判平6.2.8 民法百選Ⅰ〔第8版〕51事件)。その理由として,同判決は,「建物は土地を離れては存立し得ず,建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから,土地所有者としては,地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有するのであって,土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は,土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で,あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく,建物所有者は,自らの意思に基づいて自己所有の登記を経由し,これを保有する以上,右土地所有者との関係においては,建物所有権の喪失を主張できないというべきであるからである。もし,これを,登記に関わりなく建物の「実質的所有者」をもって建物収去・土地明渡しの義務者を決すべきものとするならば,土地所有者は,その探求の困難を強いられることになり,また,相手方において,たやすく建物の所有権の移転を主張して明渡しの義務を免れることが可能になるという不合理を生ずるおそれがある。他方,建物所有者が真実その所有権を他に譲渡したのであれば,その旨の登記を行うことは通常はさほど困難なこととはいえず,不動産取引に関する社会の慣行にも合致するから,登記を自己名義にしておきながら自らの所有権の喪失を主張し,その建物の収去義務を否定することは,信義にもとり,公平の見地に照らして許されない」ことを挙げている。したがって,本記述において,甲土地所有者Aは,自らの意思で乙建物の所有権保存登記を経由し,引き続き登記名義を保有するBに対し,建物収去土地明渡請求をすることができる。よって,本記述は正しい。参考佐久間(物権)301~304頁。